日経産業新聞 1999 年 2 月 12 日 28 面 「News α」
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広がるウィンドウズ料金返還運動

	『"草の根" 反乱 OS 支配崩す』

「基本ソフト (OS) の選択を認めよ」----。
パソコンにインストール (事前搭載) された「ウィンドウズ」を使用せず、マイ
クロソフトに代金の払い戻し要求を突きつける "草の根" 運動が米国で起こって
いる。メンバーはインターネットで急成長している無償 OS 「Linux」 を支持す
るユーザーたちだ。司法省との反トラスト法 (米独禁法) 裁判に揺れるマイクロ
ソフトにとって、新たな難題が持ち上がった。(シリコンバレー=町田敏生)

2・15 に決起

聖バレンタインデー明けの 2 月 15 日。世界各地のマイクロソフトの事務所は
「未使用 OS への返金」を求める人で、ごった返すかもしれない。Linux の信奉
者たちがこの日をウィンドウズ・リファンド(払い戻し)・デー」と設定したから
だ。

無償 Linux 武器に

マイクロソフトは、市場に出回るパソコン OS の 9 割以上に「ウィンドウズ」
を供給、事実上の独占体制を築いた。米経済再生の最大の立役者ともいわれる。
だが巨大になったマイクロソフトは、OS 支配をテコにいれた膨大な手元資産を
駆使し、インターネット、電子商取引、コンテンツ (情報の内容) 、通信など
IT (情報技術) のあるゆる分野に影響力を及ぼそうとしている----。昨年 5 月、
米司法省が独禁法提訴に踏み切ったのは、こんな世論が背景にあった。

店頭でパソコンを買えば、そのほとんどに「ウィンドウズ」が搭載してあり、大
半のユーザは無条件に受け入れている。だが、他の OS を使いたいユーザーはど
うすればいいのか。Linux の熱狂的なファンたちはその点を突く。

ただ、Linux のような「無償 OS」が即座に「ウィンドウズ NT」を駆逐するよう
な勢力になるとはいえない。ネット管理サーバ用の OS としては優れた性能を持
っていても、「一般向けの OS として活躍するにはバグ (ソフトウェアの欠陥)
が多く、業務ソフトが貧弱」 (代理店) との見方も多い。

裁判で脅威主張

Linux の正式採用を決めたヒューレット・パッカード (HP) も「一夜にしてウィ
ンドウズにとって代わる訳ではない」 (インターネット事業開発部長のグレッグ
・ミラン氏) という。

マイクロソフトもしたたかだ。独禁法裁判で盛んに「Linux のシェアが急速に増
し、当社の脅威になっている」と主張。同社の優位がいかに脆弱 (ぜいじゃく)
かを強調して、裁判を有理に展開しようとする。だが Linux ユーザの反乱が象
徴するように、この 20 年間、営々と築き上げてきたソフト産業の事業モデルが
否定されるのなら、マイクロソフトの打撃は大きい。


リファンド運動中心メンバー D・マーティー氏に聞く
	ソフト選択権の行使

「リファンド・デー」を提唱する中心メンバーで、Linux コンサルタントのドナ
ルド・マーティー氏に同運動の狙いを聞いた。

---- 払い戻し要求に踏み切ったきっかけは。

「オーストラリアのパソコン購入者が、未使用のウィンドウズの料金返還を求め
たところ、その処理に 4、5 ヵ月を費した。この体験と批判を咋夏ごろネット上
で披露。すると賛同者が続々と集まりだし、世界のネット仲間と連携した運動に
なっている」

---- 払い戻しの根拠は。

「現在、大半のパソコンにはウィンドウズが搭載され、購入者は半強制的に OS
料金を支払っているもいえる。一方、同社のソフト使用権許諾契約書には、OS
が未使用の場合には返金が可能だと明記してある。払い戻し要求はユーザがソフ
ト選択権を行使する上で当然のことだ」

---- 15 日に何が起きる。

「サンフランシスコ、シリコンバレー地域でマイクロソフトのオフィスを訪問し、
返金の要求などについて話し合う計画だ。ただ返金は膨大なユーザのごく一部だ
ろうし、独禁法裁判を勘案すれば、要求に応じることは企業イメージにもプラス
に働くはずだ」

---- 司法省による提訴・裁判と今回の運動の関係はあるのか。

「まったくない。我々は提訴したり、OS のライセンス契約慣行の改善を求めて
いるつもりはない。ユーザが Linux に容易に乗り換えられ、無駄なソフト代を
払わなくて済む環境づくりを目指しているだけ」

---- 技術を公開した「無償 OS」が、マイクロソフトの牙城 (がじょう) を切り
崩すとの憶測もある。

「ネット管理サーバ分野では、Linux は安定性、処理性能でどの OS よりも優れ
ている。データベースや一般業務用ソフトも出始めた。まだ弱点は残っているが、
2、3 年後にはウィンドウズ NT のような OS に成長するだろう」

---- 「無償ソフト」は業界にどんな変化をもたらすのか。

「技術公開 (オープンソース) してソフトを開発、提供するやり方はネット上で
の改良速度が早く、十分な互換性が確保できる」


<<ウィンドウズ・リファンド・デー>> 2 月 15 日に米国、日本など世界一斉に
マイクロソフトに対し未使用の OS 料金の返還を求める。Linux の急速普及を背
景に、ウィンドウズによる OS 支配を突き崩そうという運動だ。払い戻しを拒否
された場合には、米連邦取引委員 (FTC) への苦情申し立ても提案しているとい
う。